瑠哀 ~フランスにて~
 朔也は少し溜め息をついた。


「こんなにきれいなのに、傷を負って……。

その傷を見て心を痛める者もいると、少しは考えてくれたらいいのに。

あれだけ真っ直ぐな瞳をなにごとからも反らさず、それに立ち向かって行くルイの姿があまりに痛々し過ぎて……。

それを、何もできずにただ眺めている自分がいて、情けない、と思っている。

彼女の為に何ができるのか、と考えたら、本当に何もできない自分に気付く。

それもまた、情けない。

彼女は、俺が信じていた理念を完全に打ち壊してくれた。

彼女の言葉の重さが、ものすごく身に染みる。

こんな十五・六の女の子が、それを本当によく知っていることにも、驚かされた。

まだ十六なのに、誰にも頼らない強さと甘えの無さに、驚いた。

辛い、と言うことを一度も口に出さず、

ただ他人に優しく微笑む彼女が、ずっと不思議だった。

どうして俺達の心配しかしないのか、ずっと不思議だった。

彼女と出会ってから、俺は不思議と驚きの交互に襲われているような気がする」

「それを、「新発見」と言うんだろう?

今までに会った女達と全く違うのだから、

彼女が話すことも、することも、全て他の女とは違う。

不思議も驚きも、全て当然のことだ」

「君は驚いているの?」

「そうだね。

僕が一人の人間に執着するなんて、絶対に起こらない、と信じて疑わなかったからね」


 そうか、と朔也は少し笑って、胸の中の瑠哀に視線を落とした。


 もう一度、そっと瑠哀を包み込み、その髪にキスをする。


「ゆっくりお休み、お姫さま」
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