瑠哀 ~フランスにて~
 瑠哀は朔也の暖かい腕と胸の中で、ぼうっとしたまま微かに目をあけた。

 その頭に、男の声が響いてくる。


「―――強制捜査の為に、我々が家に押し入った時には、すでにもぬけの殻でして…………」


 聞き覚えのある声。


「取り逃がしたのか?」


 これはピエールの声だ。


――――取り逃がし………?


 瑠哀はそれを聞いて頭を起こしかけた。


 ふっと、朔也の腕が動き、瑠哀をもう一度包み込むように抱き締める。


『大丈夫だよ。まだ、休んでるんだ』


 朔也が瑠哀の耳元に顔を近づけて、そっと、囁いた。

 その腕が優しく瑠哀の頭を包み、反対の手が瑠哀の肩を囲う。


 瑠哀は朔也の胸に顔を当ててはいたが、その神経は向こうの会話に集中していた。


「それで?」


 ピエールの冷ややかな問いが聞こえる。


「操作網を広げて、全捜査員を導入するつもりです。

二十四時間以内には、マルセイユ近郊の交通網も全て押さえる予定となっています」

「押さえて、逮捕できるのか?」


 ピエールの声音がものすごく冷たい。

 侮蔑がありありと含まれている。


「……尽力、いたします」


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