瑠哀 ~フランスにて~
「尽力、ね。それで、奴を逃がしたのは誰だ?

こんな失態をしておいて、言うことはそれだけか?

ここにいる人間が、また襲われるようなことにでもなってみろ。

その時は、お前達の首がいつまでも繋がっていると思うな」


――――…ピエールが脅している?


 その声だけでも、突き刺さるように冷然としている。


 瑠哀は腕を動かし、体を起こそうと試みた。

 その瑠哀を、朔也がまだしっかりと抱き締めている。


 顔を上げたいのに、朔也が自分の胸に押し当てるようにして瑠哀を抱いているので、上を向くことができない。


「―――必ず、奴を捕獲します。

この屋敷の警備も、すでに配置し終わりました。

逮捕は、時間の問題だと思われます。

――――失礼します」


 それが言われ、パタンと扉が閉められた。


『―――サクヤ』


 瑠哀が口を開いた。朔也はまだ瑠哀を抱き締めている。


『お願い、サクヤ』


 瑠哀がもう一度言う。


 しばらくの沈黙があり、ふう、と頭の上で微かな溜め息が聞こえた。

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