瑠哀 ~フランスにて~
 ふっと、朔也の腕が緩められ、それで、瑠哀はゆっくりと身を起こした。


「今の、なに?」


 身を起こした目の先に、朔也の少し哀しげの感じのする瞳が瑠哀を見つめていた。


「リチャードを逃がしたのね」


 朔也は微かに眉を寄せた。

 それを見ると、瑠哀は小さく息を吐いた。


 横に目を向けると、ピエールが静かに座っている。

「あの刑事はいつ来たの、ピエール?」

「ほんの少し前だよ」


 ピエールは表情の無い顔で、淡々と答えた。


 そう、と微かに口を噛み、瑠哀は朔也から少し離れ出す。


「サクヤ、どうもありがとう。

ごめんね、私のせいで動けなかったでしょう?

足とか、痛くないといいんだけれど………」


 瑠哀は顔を戻し、朔也を見やる。朔也は静かな微笑みを浮かべ、首を振った。


「本当に、ありがとう」


 瑠哀は感謝の気持ちを表したその瞳を、少しだけ和らげた。

 ピエールにも向いて、お礼を言う。


 二人はただ静かな微笑みをみせるだけだった。


「……まだ、他になにかあるのね」

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