瑠哀 ~フランスにて~
「君を気絶させることだけは、したくない。

君の意思に反して、強制的に連れ帰ることもしたくないんだ。

ルイ、俺の言っていることがわかるね?」


 これは本気なのだろう。その瞳が、冗談でないことを伝えている。


 瑠哀は困って、小さな溜め息をついた。


「あのね、今休むことはできないの。

このまま休むと、次の一週間、私は使い物にならなくなってしまうの。

連れ帰らなくても、そうなってしまったら、同じこと。

お願い、わかって。

あなた達がとても心配してくれているのは、私もよく判っているの。

本当に、ありがとう。

でも、カタをつけなきゃ。

リチャードなら、必ず来るわ。そうでしょう?」


 朔也とピエールは渋い顔をして、黙り込んだ。


 瑠哀がスッと動いて、朔也に近づいた。


「―――!」


 優しく頬にキスされて、朔也は咄嗟に瑠哀を見返した。

 その先で、とても静かな漆黒の瞳が、優しく緩められる。


「ありがとう、心配してくれて」


 瑠哀が微笑み、顔を少し動かして、ピエールの頬にもキスをした。


「ありがとう。私は、大丈夫よ」


 そう言って、今度は完全に朔也の腕から離れた。


「シャワー浴びてくるわ」


 瑠哀はバスルームに駆けて行った。


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