瑠哀 ~フランスにて~
 その後ろで、朔也がクシャッと自分の髪を掴み、やるせないように顔を歪めていた。


「どうするんだ、サーヤ?」


 ピエールが鋭く問いかけた。


「…並の勘の鋭さじゃない。ルイは、必ず気付くはずだ。

ルイがそれに気付いて、また一人で動き出すなら、今それをきちんと話すべきだろう。

話して、一人で動かないことを約束させる。

それしか、方法はない―――」


 朔也は顔を歪めたまま、それを辛そうに言い捨てた。


「……まさか、ケインまで取り逃がすとは、考えもしなかったよ。

これで、降り出しに逆戻りだ。

奴らが大人しくしているはずが無い。

僕達がルイを押さえなければ、ルイは必ず動くよ。

方法など……、無いも同じじゃないのか?」


 ピエールの顔は、望み無し、と言う諦めが浮かんでいた。


 朔也はさらに険しく眉根を寄せ、黙っていた。


 あの瑠哀を無理矢理気絶させることなど、したくはない。だが、今の状況だと、その選択はないに等しい。


 それをしてしまったら、たぶん、瑠哀は一生自分だけを責めるだろう。

 朔也達ではなく、自分が悪い、と責めるだろう。


 そんなことを、朔也ができるはずもなかった。


「くそっ――――」


 投げやりに言われたその言葉は、シーンと静まり返った部屋の静かさにかき消されて行った。

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