瑠哀 ~フランスにて~

-6-

 ジリジリと、見えないケインかリチャードの影がすぐそこまでやって来ているその恐怖に、

その最後の決戦に、瑠哀だけではなく、

朔也もピエールも顔に出さない緊張を感じていた。


 いつ来るか――――


 あの人を人とも思わない卑劣なケインと、そして追い詰められて行き場所を失ったリチャードの二人。

 単純なケインと違い、リチャードは頭が切れる男だけに、

 その男が自分でも人生最大の汚点を目の当たりにしている現状は、

かなりの不安要素を瑠哀達に残す。

 今まで、エリート路線を一直線に進んで来たはずであろうリチャードの初めての挫折である。

 一体、これからどう転ぶか、それを予測することも、難しくなっていた。



 一体、いつやって来るのか。



 その不安が、キリキリと切羽詰ったこの時を締め付けているようだった。


 その言葉に出さない暗黙の繰り返しが、ジリジリと三人を―――瑠哀を追い詰めていた。


 だが、必ずやってくる、という確信だけはその不安に押されて消え去ることはなかった。



 必ずやってくる―――



 シーンと、音のないその部屋で、ほとんど身動きを見せない瑠哀を懸念し、

ずっと付きっ切りのピエールと朔也は、言葉なく瑠哀を見詰めているが、

その顔はここしばらくずっと浮かない渋いものだった。


 瑠哀の瞳が静かに瞬きをする。

 だが、それさえも、ずっと見続けていなければ簡単に見逃してしまいそうなほどの、

微動だった。呼吸をする気配が薄い。

 一瞬、息をしているのか、と疑いたくなるほど、その細い体が身動き一つしなかった。


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