瑠哀 ~フランスにて~
 朔也とピエールの眉間が、ここしばらくで、

その間にしっかりと跡がつくほどに、きつく寄せられたままだった。

 このまま瑠哀が突っ走れば、遅かれ早かれ、

瑠哀は体力の消耗で倒れてしまうことは間違いないのだ。

呼んで聞こえているのか、食事を差し出して見えているのか。


 あまりにやつれた瑠哀を目の当たりにして、このまま無理矢理にでも連れ帰りたい心情とは別に、

瑠哀が決して一歩も引かないであろうこの現状に、朔也もピエールも完全にお手上げ状態だった。


 普通の女の子とは少し違う。そして、それが魅力的だった。


 だが、これだけの集中を見せて自分自身を外界から完全に隔離してしまった瑠哀を見て、

誰がこんな風になってしまうなどと想像できようか。

それを始めから予想できたのなら、ここまでひどい状態になる前に

――ここまで瑠哀がその優しい心を砕く前に、パリに連れ帰して、

そのまま一歩も外になど出しはしなかったのに。



 そこまで、瑠哀は大切な存在に変わっていたのだから―――



 瑠哀が、ふいっと、顔を上げた。

 身動きも見せないのに、ふいっと、顔を上げて、その瞳が真っ直ぐにある一点に向けられた。


 そこには、棚に飾られてある置時計が、コチコチ、と規則正しい音を立てて動いていた。

 時間にして、八時を少し過ぎた所だ。


 瑠哀はじっとその置時計を見ていた。その奥で、また、何かを深く考えている。


< 251 / 350 >

この作品をシェア

pagetop