瑠哀 ~フランスにて~
 駆け出そうとした瑠哀の肩を押し留めて、朔也がスッと動いた。

 セシルに寄って、その首元に手を押し入れる。

 すぐに、マーグリスの顎下にも指を押し当てた。


「これは、なんだ。―――睡眠薬か」


 部屋に入って来たピエールがこの惨状を見、サッと当たりを見渡してそれを言った。


「ピエール。すぐに警備を集めてくれ。それから、医者と警察もだ」

「息があるのか」

「ああ。大至急に呼び集めてくれ」


 ピエールは返事をせず、そのままスッと動いて部屋から出て行った。


『サクヤ…。彼らは――?』

『大丈夫だ。息はしている。

脈も乱れている様子はない。

ピエールの言う通り、睡眠薬を盛られただけだろう』


 その説明を聞いて、瑠哀は半分安堵を見せたが、すぐにその表情が険しいものに変わった。

 パッと、無意識のように周囲にその視線を配らせもする。


 だが、その部屋には、いなければならない、

守らなければならない小さなユージンの姿がどこにも見当たらなかった。


『なんてこと……―――!』


 クッと、瑠哀が絶望を表して、口唇を噛んだ。


 朔也は倒れているガードの容態も確認していたが、瑠哀と同様に、

手遅れである事実を苦々しげに噛み締めていた。


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