瑠哀 ~フランスにて~
「リッチー、何言って…」

「僕は、「リッチー」、などと言う名ではない。

「リチャード」、だ。

そんなくらだない名で呼ばないでもらおうか」


 リチャードの声音は、冷たい何の感情も入っていないものだった。

 うんざり、とでも言いたげに、それを言い捨てる。


「なんで…?リッチー……」

「聞こえなかったのか?

リッチー、などと、馬鹿げたあだ名など聞きたくもない」

「そんな――!?だって……」

「邪魔なだけだ。勝手に消え去れっ」

「ひどいっ――!

――だって…、わたしの力が必要だ、って…。

――ケインを使って、二人でマーグリスを手に入れよう、って……」

「ふん。

くだらない夢物語など信じているのは、お前くらいなものだろう。

お前はただの駒だ。僕と一緒にだと?

たかがメイド一人、なぜ僕が構うとでも思っているんだ」

「そんな……!――ひどい…。一緒にって……」

「お前は用無しだ」


 ブオン、ブオン、と車のエンジンが唸りを上げ出した。


 まだ自分に向けられている拳銃を見やりながら、

女の表情には絶望と裏切られたそのショックとが混ざり合って、そこで絶句していた。


 使うだけ使えば、後は用無し。

 その突き付けられた事実を目の辺りにして、女がヘタヘタとその場に崩れ落ちて行った。

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