瑠哀　～フランスにて～
――――来る！


　バッと、瑠哀が動いた。

　それと同時に、ケインの大きな一歩がバッと瑠哀に届く。


「――きゃっ――！」


　後ろからひっつかまれ、そのまま壁側に投げ飛ばされた。

　ガツッ、と体ごと壁に叩きつけられる。


「…あっ―――!!」


　痛さで顔をしかめる余裕などなかった。


　ダッと、駆け寄って来たケインが置き上がりかけた瑠哀の上に飛び乗って来た。


「離してっ！」


　縛り付けられた腕を押さえ込み、牙を剥き出しにケインが瑠哀に襲いかかる。


「離してっ――！」


　瑠哀も必至になって抵抗した。

　腕を振り上げ回し、それでケインをほんの少しかすめた隙に、

体をねじりまわすように動かして、ケインを蹴り付ける。


「離してっ――」

「うるさいっっ！」


　目が血走っている。興奮でギラついたその目を向けて、

狂暴に襲い掛かって来る野獣に変わっている。

　目の前の獲物を食い尽くす為に、喉骨を噛み切る勢いでケインが瑠哀を押さえ付ける。


< 268 / 350 >
表紙・目次

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop