瑠哀 ~フランスにて~
“―――そのボート。止まりなさいっ。

無駄な抵抗は捨て、ボートを静止させないさい―――っ”


 スピーカーから叫ぶ声が、キーンと耳を割るほどに飛び込んで来た。


「くそっ!」


 ガバッ、と両手を乗せて一気にハンドルを横に切ったリチャードが、

そのスピードのまま激しい円を描いて左にターンして行く。



 拳銃が反らされたので、その隙を――と狙っても、スピードに振り回されて、

その反動で座っている瑠哀がサイドにぶつかった。



「――――んっ…!」

「くそっ。追いつかれたか。手早いことで―――」


 これを予期していたのか、リチャードはさほど驚いた様子はなかった。


「ふん。こっちには人質がいることを忘れるなよっ」


 誰にとも呟いているのではないのに、リチャードがまた大きくターンをしながらそれを叫んだ。


 振り回されてぶつからないように、瑠哀はしっかりとサイドに掴まった。

 跳ね上げる水飛沫が顔までもかすって行く。

 スピードを落とすこともなく、むしろ、さっき以上に加速したボートを追いかけて、

後ろからたくさんの船が回り込んでくる。



 チラッと、ほんの一瞬だけ見れたその船の様相は、ここらの海上警備隊のようだった。

 船の中央に光る赤いランプが反射し合っているのが瑠哀の視界の端に映っていた。


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