瑠哀 ~フランスにて~
 バラバラ、バラバラバラッ!


 咄嗟の轟音と共に、ぶわぁっ、といきなりリチャードと瑠哀の前を大風が襲う。


「――っくっ……!」


 咄嗟のことで、バランスを崩したリチャードが慌てて舵を取り直す。


 バラバラ、バラバラ。


 けたたましい轟音が頭上で鳴り響いていた。


 瑠哀も驚いてパッと顔を上げると、リチャードを行く手を阻むようにして、

二機のヘリコプターが連なってボートに暴風を叩き付けていたのだ。



 上下に揺れるヘリコプターのプロペラが、そこらの海水までも巻き上げる。


『ヘリコプターまでも……!?』


 一体、どこからやって来たのだろうか。

 まるで、リチャードがこの港に現れることを先読みでもしていたかのように、港を離れてすぐに警備船が現れた。

 おまけに、今はヘリコプターまでも瑠哀達を追尾している。


 たった一つだけ、これだけ親しくなった瑠哀でも知らないことがあった。


 それは、瑠哀が当然だと考えている日常と常識を遥かに超えた世界を知っている、

その世界を動かしてきた二人が瑠哀の友人になった、と言うことだった。


 ただの金持ち坊ちゃんではないのだ。

 瑠哀の命と引き換えに、警察とリチャードの取引をする―――と言うのなら、

ピエールは微塵の躊躇もなくその取引を買って出たことだろう。


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