瑠哀 ~フランスにて~
 それでリチャードを取り逃がしたのなら、

瑠哀が無事に戻ってきた後にでも片付ければ済むことだ、

とリチャードの重要性など欠片にも考慮していないことも、瑠哀は知る由もない。

 ピエールにはピエール側のコネクションがある。

 そこらの警察がジタバタしたくらいで揺るぐような力ではない。

 富と名声―――そして、それを釣るだけの才能と隠れた力。



 ピーエルが望んだもので手に入らないものは、今まで一つとてない。

 瑠哀がピエールを大切な友人として扱っているから、ピエールに噛み付かれなくて済んだのかもしれない。

―――いや、そのピエールを知っても尚、大切な友人だと言い切る瑠哀のその心を知って、

ピエールがたった一人の人間に執着をしているのかもしれなかった。



 そして、大切な友人から、とても大切な少女に変わっていた瑠哀を思う朔也が、

あれほどの屈辱を前にして大人しくしているはずがないことも、瑠哀は知らない。

自分の目の前で、誰よりも守りたい、大切にしたい少女を連れ去られ、

その憤りは想像を越えるものであったはずなのだ。



 世界のトップを行く霞月財閥を受け継ぐようその躾をされているだけに、

無残に自分の前から大切なものを奪われるなど、

そんな無様なことは決してあってはならない。

 ”霞月”の名が有名なら、それを使うまで。

 ”霞月”の力が恐れられているのなら、それを使うまで。

 使えるものは全て使ってでも、欲しいものは取り返す。



 瑠哀がリチャードに連れ去れたすぐ後に、マルセーユ近郊だけでなく、

海外逃亡も考えて、海・空・陸の交通路全てに捜査・捜索網が敷かれたのだ。


 後は、網に自ら踊り出てくるリチャードを待つのみ、という状態だった。


< 278 / 350 >

この作品をシェア

pagetop