瑠哀 ~フランスにて~
「ふん。追いつけるのなら、やってみろっ!

こっちには、まだ人質がいるんだ。

やれるものなら、やってみるんだなっ」


 何隻もの船に囲まれて、その行く道を阻まれているのに、未だ降参する気はないようだった。

 未だ、その強気を捨てはしない。



 行く手を阻まれれば、その船に突っ込んで行くことも厭わない。

 瑠哀が一緒に乗っているだけに、そのまま自滅されては、元も子もないのだ。

 それを承知していてか、リチャードの運転はどこまでも強気なものだった。



 真っ直ぐ突進して行き眼前のボートにぶつける――とのその数瞬、向こう側が一歩の差で引くのだ。

 一緒にいる瑠哀を傷つけるな、と厳しく言いつけられている。

 リチャードの無謀に付き添って船をぶつけ合うことは容易ではない。



 一隻の船が円陣から割れた隙を見逃さず、リチャードがその合間を猛烈な勢いで走り抜けて行く。

 ウィーン、と唸りを上げ、その小型ボートのエンジンが焼ききれてしまいそうな轟音を金切り上げていた。



 船の追尾を逃れても、次には空からの追尾がすぐにリチャードへの新たな攻撃を仕掛ける。
 一機がリチャードの真ん前に立ちはだかった。

 猛烈な逆風を受けてボートの先端が反り上がったかと思われた刹那、

後ろ側からもう一機のヘリコプターが後備からも唸りを上げた。


 両方に押され、両方の逆風を受け、ボートが海上で激しく縦横に揺れた。

 瑠哀は逃げることも適わず、必死でサイドにしがみつくだけしかできない。

 リチャードもまた舵を押され、必死で回転を試みようしているようだったが、

それもままにならず。


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