瑠哀 ~フランスにて~
 瑠哀はピエールを横目で見、もう一度、目の前の絵に視線を戻した。


「―――あなたの言う通り、人一人を買うことなど大したことではないかもしれない。

お金を作ることも、きっと、そう、難しいことでもないでしょう。

やろうと思えば、あなたを買うお金ぐらい作れないこともないわ。

パパに頼まなくたって、パトロンがいるもの。

きっと、簡単でしょうね」


 そこまでを言って、ゆっくりと振り返った。腕を組みながら、左手を軽く上げ、その上に顎を乗せる。


「私も、あなたに聞きたいことがあるわ。

もし、あなたを手に入れたら、あなたは私の何を満たしてくれるの?」


 その問いに、ピエールは顔をしかめて瑠哀を見返す。


「才能?あなたの芸術作品?

それとも、ここにある数百億ドルの絵?

それだったら、あなたを手に入れる必要などないでしょう。

作品を買えばいいだけだもの。

お金?

――これだって、大したことはないわ。

私が、あなたを手に入れるだけのお金があるなら、

その他のはした金なんかに構っているだけ無駄だもの。

そんなくだらないものじゃ、私は満足しないわ。

だったら、あなたは、一体、私の何を満たしてくれるの?」
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