瑠哀 ~フランスにて~
「くっ―――!――やれるものなら、やってみろっ――」


 バッと、舵から腕を離したリチャードは、その形相も激しく、持っていた拳銃を空に向かって大きく突きつけた。


 撃たれる――と、カッと目を見開いた瑠哀の前で、前方の一機が急上昇した。


「ふんっ」


 すかさず、リチャードがその空いた先にボートを疾走させる。


 まだ、後尾のヘリコプターはまだ後ろから波風を立ち上げる。

 瑠哀がそのヘリコプターに目を向けたその瞬間―――


「――!!」


 瑠哀は激しい瞠目を見せていた。

 自分の目にしているものが信じられなく、その光景さえも信じられなくて、

瑠哀は激しい瞠目を表していたのだ。



 信じられない――ことに、激しく揺れ動くその空上から、

朔也がそこにぶら下がってボートに飛び降りてこようとしているのだ。


 ヘリコプターが巻き上げる強風に煽られて、ぶら下がっている朔也の体もまた激しく揺れていた。

 空上でその不安定な場所にいる朔也が、瑠哀のいる元に飛び降りてこようとしているのだ。


 瑠哀は信じられなく、呆然としてその朔也を見上げていた。



 前方にさっきの一機が舞い戻ってくる。



 また、さっきと同じ攻防が始まった。

 いきり立ったリチャードが銃を向ければ、即座にヘリコプターが上昇して行く。


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