瑠哀 ~フランスにて~
 前方のヘリコプターがリチャードの怒りを上手いように煽り立てているようだった。

 その間に後方のヘリコプターが、更に、ボートの方に寄って来る。


 バラバラ、バラバラ!


 轟音と共にものすごい強風が後ろからボートを襲った。

 その勢いに、瑠哀もサイドにしがみついたままヘリコプターを正視することができない。


「きっさま―――!ふざけてるっ!」


 横でリチャードの狂ったような叫び声が響いた。


 ハッとして、咄嗟にリチャードを見上げた瑠哀の前で、

その腕が真っ直ぐ後ろに伸ばされている光景が飛び込んで来た。


「ダメっ―――!!」


 波に煽られて、真っ直ぐ立っていることも難しいであろうそのボートで、

瑠哀がバッと立ち上がった。

 揺らされているその反動のままリチャードにぶつかり、ドタッ、と二人が後ろに転がって行った。


「――うっ…!」


「あっ……!」


 その隙を逃さず、後方のヘリコプターがボートに覆い被さる――というほど間近に下りて来た。


 トン、と激しく揺れているボートに朔也が飛び降りた。



 ボッ、ドッドッ、と舵手のいなくなったボートが急速にその速度を落として行き、

波に揺られるままにその沖でゆらゆらと流され出す。


< 281 / 350 >

この作品をシェア

pagetop