瑠哀 ~フランスにて~
 監視船やら偵察船らしき船も続々と速度を落としてボートの遠くを囲み出した。

 だが、近寄って来る様子はないようだった。


「ここまで追ってくるとはっ」


「リチャード。無駄な抵抗を捨てるんだっ」


 瑠哀に飛ばされたリチャードではあったが、すぐに起き上がって、その上、

倒れている瑠哀まで引っ張り上げ、その銃口が瑠哀に押し当てられる。



「もう逃げられない。無駄な抵抗はやめるんだ。彼女を解放するんだ」

「うるさいっ!動くと、この女がどうなるか判ってるんだろうなっ」

「彼女を解放するんだ、リチャード。

人質なら、俺を代わりにすればいい。

彼女と交換に、俺を人質に取れ。

逃げたいなら、俺を人質に取り、いくらでも逃げ切ればいい。

彼女を解放するんだ」



 瑠哀を人質に取り、朔也と向き合うリチャードに、

朔也が暴風に負けないその声を上げて説得する。


「ほう?その手もあったか。

この女よりは、お前の方が遥かに価値はあるだろう」

「彼女を解放してくれ。俺が人質の交換になろう」

「サクヤ、ダメっ」


 朔也がチラッと瑠哀にその視線を向けた。

 そして、ふっと、この場に全くそぐわない、優しい穏やかな微笑みを浮べてみせた。


「サクヤ…、ダメ…」


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