瑠哀 ~フランスにて~
「確かに、お前はかなり価値になる駒だろう。

だが、カズキの御曹司を誘拐すれば、

タダでは済まないということも、僕は知っているんだ。

僕は馬鹿じゃない。

僕を甘く見るなよ。

この女は価値がないが、役に立つ。

逃走するのには十分な駒だ。

国を超えれば、手出しはできない」



 朔也はリチャードを慎重に見返したまま何も言わない。



「ふん。

それとも、次の国も押さえてるか?

―――だったら、カズキの手の回らない国に移ればいいだけだ。

この女の命が惜しかったら、僕をこれ以上怒らせない方がいい。

お前一人いなくても、取り引きは成功するんだ。

片割れがいるからな」


 一瞬、瑠哀の背筋にヒヤリとしたものが流れて行った。

 感情など微塵も感じられないリチャードの声音は、

ケインを撃ち殺した時の無情さえ感じられたあの時と全くと言って変わらなかった。



「この女がそんなに大切か?だったら、大人しく道を明けるんだな。

あっちにいる奴らに言い聞かせろ。

手出しはするな、と。

カズキの力を最大限有効に使って、だ」


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