瑠哀 ~フランスにて~
 一度、ピエールの方を見上げた瑠哀だったが、

ピエールに笑みを浮かべかけて、その口唇がまた凍り付いたように止まっていた。

 朔也の方にすぐに戻されたその大きな瞳は、ピエールに向けられたその時も、

哀しげに、それ以上に、壊れそうなほど激しく揺らいでいた。



 優し過ぎて傷つけたくなかった―――瑠哀のその心を知っているからこそ、

目の前に傷を負った朔也を見ている瑠哀が自分を激しく責めているであろうことは、

ピエールにだって朔也にだって容易に想像がついた。



 だから、心配しなくていい、と瑠哀に言い聞かせているのだ。

 そうでもしないと、思い詰めているその儚げな瞳が今にも崩れ落ちてしまいそうで、

傷だらけなのに一人立っているその姿が痛々し過ぎて、

せっかく無事に戻って来たのに、まだまだ安堵ができるような様子ではなかった。




「―――ルイ、心配しないで。俺は大丈夫だから」



 朔也が優しく瑠哀に微笑みをみせる。

 いらない、と言ったのに、手当てをしている最中に勝手に打たれた鎮静剤の為、

朔也は瑠哀の見守る前でベッドに横になっていた。



 瑠哀がベッドの端に腰を下ろし、朔也の傍らで心配そうに朔也を見下ろしている。



「ルイ、そんな風に心配しないで。

俺は大丈夫だから。

だから、君も休んで。

俺には、そっちの方が心配なんだ。

ルイ、きちんと休んで」



 朔也の顔からはその優しい微笑みが消えない。

 少し腕を上げて、瑠哀の細い手首に触れると、

すぐに、瑠哀がしっかりとその手を握り返して来る。


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