瑠哀 ~フランスにて~
 何かを思い詰めるように、その哀しげな漆黒の瞳が一心に朔也に注がれていた。


「ルイ、サーヤは大丈夫だよ。心配はいらない」


 瑠哀の背にその優しい言葉がかけられる。



 瑠哀は少し頷いてみせたが、

まだ思い詰めたように眠ってる朔也の顔を見詰めていた。



 それでも、何かを吹っ切るかのように瑠哀が顔を上げ、

今まで触れていた朔也の手から、自分の手がゆっくりと離れて行った。



 ベッドから下りた瑠哀が真っ直ぐにピエールに向き直る。

 その瑠哀をピエールは静かに見守っていた。



 何も言わず真っ直ぐにピエールの元に歩いて行き、

そのままピエールの背に腕を回して抱き付いた。



 ピエールもその瑠哀をそっと抱き締め返す。


「ピエール、ごめんなさい。本当に、ごめんなさい」

「もういいよ。終わったことだ」

「本当に…ごめんなさい、ピエール」


「もういいよ、ルイ。

君も、サーヤだけじゃなく、今は休むべきだ。

そんな体で無理をしてはいけない」


「…ごめん、なさい、ピエール」

「もういいから」


< 322 / 350 >

この作品をシェア

pagetop