瑠哀 ~フランスにて~
「――本当に、行かれるんですか?」



 深夜が更けようとしている頃、マーグリスの寝室に、瑠哀一人だけだが訪れていた。

 マーグリスはまだベッドに寝ているが、少しうつむいている瑠哀を見上げながら、

ゆっくりと肘をついて起き上がり出していた。



「そのまま、休んでいてください」

「いえ――」



 それを言って、マーグリスは上半身を起こし、重たい体を押しながら、後ろの枕に寄りかかる。



「なぜ、今夜、行かれるのです?

明日でも良いはずでは」

「そう、ですね……。

――ですが、私の持っているチケットは、変更することができないんです」



「それなら、私が代えることも可能です」


「ありがとうございます。

でも――、本当に変更は、できないんです。

私の家族も、私の帰国を、待っていますから」


「帰国?―――パリに戻るのでは――」

「いいえ。

私は――ただの、観光客、なんです。

パリに戻るのは、家に戻る為に、

パリを去らなければならないからです」

「観、光客…?」


 マーグリスは、意味が判らない、と微かに眉をひそめていた。


 そんなマーグリスに、瑠哀は小さく笑んでみせる。



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