瑠哀 ~フランスにて~
 マーグリスはそれ以上何も言えなかった。


「こんな夜更けに慌しく出発しなければならなくて、申し訳なく思っています。

きちんとした挨拶もできずに、本当にすみません」

「いえ、いいんです」


「それから、これからパリにまでなど―――大変な距離になってしまうのに、

わざわざ私の為に車まで用意してくださって……。

本当に、お言葉に甘えてしまっても、よろしいのでしょうか」


「もちろんです。

運転手にも、きちんと説明しておきましょう。

明日の飛行機に間に合うよう、空港まであなたをお送りします。

その後、パリで休んでくるようにも言い渡しますので、心配はないでしょう」



 マーグリスの気配りに、瑠哀もつい微笑んでいた。



「わざわざ、すみませんでした」

「いえ。あなたが私達にして下さったことを考えれば、

この程度ではまだまだ足りないでしょう」

「そんなことはありません。こ

れだけで、十分なほどなんです。本当に」



 大真面目にそれ以上の好意を避けるように手を振る瑠哀に、

マーグリスも少し瞳を細めていた。

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