瑠哀 ~フランスにて~
 瑠哀はそれを言われて、またうつむいていた。

 哀しそうに少しうつむいて、その瞳をさ迷わせながらキュッと口を結んでいる。


「観光客――でも、友人となれば、別れの挨拶は必要でしょう」

「……私が、黙って、出て行ってしまったら、きっと……――」



 瑠哀は、ずっと一人考えていたその言葉を呟いていた。

 この場になって、感情のたがが揺るんでしまったのでもあるまいに、

それでも、泣かないようにしよう、哀しまないようにしよう、

と強制していた自分の感情が出てしまったのだ。



「大切な友人であるのに、何も言わずに去ってしまったら、

きっとそちらの方が心配なさるのでは?」



 瑠哀はまた真剣に考えていた。



「…一つ、だけ、お願いしても、いいでしょうか…」

「もちろんです。何でも言って下さい」


「これを―――この手紙を、二人に渡してくださいませんか?

本当は…、扉の前に置いて行こうと思っていたんですが―――」

「わかりました」

「すみ、ません」


「なにを。

これくらいのことなど、お礼のうちにも入りませんよ」


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