瑠哀 ~フランスにて~

-5-

 コンコン。


 ピエールは冷めた目を向けて、扉の方を見ていた。

 こんな朝早くから、ルイだろうか―――とそんなことを考えながら、スタスタと歩いて行く。



 普段から朝夜問わず、眠る時は勝手に寝るし、

気が乗らず眠らない時は全く寝ない、という偏向があるピエールは、

ここしばらくの寝不足にも関わらず、

昨夜、瑠哀と別れてからほんの一~二時間ほどの仮眠を取り、

その後はいつもの通り一人起きていたのだ。



 いつもはきっちりとした高価なスーツを着込んでいるピエールだったが、

また本人の気分次第で、今はただシルクのシャツに簡単に袖を通し、

ボタンをしっかりと留めているのでもなく、楽にただシャツを羽織っていた。



 楽な格好をしていても、ズボンはスーツの下であるきちっとしたものだ。

 瑠哀だって、ピエールと出会って以来、

ピエールがきちっとした洋服以外の様相をしている所を見たことがない。

 タキシードを着て、悠然と歩いている姿はまさに王子様ものだったが、

普段からしても、決して崩れない貴公子的な様相の青年だった。



 ピエールが扉を開けると、瑠哀だと思っていたそこには、

予想外にもマーグリスその本人が来ていた。



「フォーンテーヌ氏。朝早くにお伺いしてしまい、お詫びをします」



 杖をついて、まだ自分もパジャマの上にガウンを羽織っているような様子のマーグリスが、

まず、きちんとその詫びを言う。


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