瑠哀 ~フランスにて~

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 鍵を鍵穴に入れ、ゆっくりとドアを回す。入り口に立ったまま、全身の神経を集中させて音を立てずにドアを押すようにした。


 入り口から見える奥には誰もいないように思える。一歩中に入りながら、ドアを閉めるべきか迷いそのまま開けておくことにした。いざと言う時に、逃げ道を確保しておいた方がいいだろう。


 足音を立てず息も殺して、壁づたいに部屋の中に進んで行く。

 最初の居間とキッチンがあるところは、荒らされていないようだった。

 寝室のドアをそっと押し、室内に目を配らせる。



 誰もいないようである。



 瑠哀は、ほぅ、と安堵の息を洩らした。

 荒らされている様子はないが、何となく朝出て行った時と様子が違う。



 明らかに、誰かがこの部屋に侵入していたはずなのだ。



 ああ…、と言葉にならない呟きをもらし、片手で顔を覆った。

 瑠哀のいない間に誰かが部屋に侵入していたのである。



 その誰か、と言っても、心当たりは一つだけ。あの男達。



 昨日、追尾されていたのだから、瑠哀の部屋を見つけることくらい簡単なことだろう。

 このモーテルは、それほどセキュリティーにうるさいようには見えない。



 何を探していたのかは知らないが、ここまでするくらいだから、状況はかなり切羽詰っているのだろう。



『―――まいったわ……』

『どうしたの?』


 瑠哀は、ビクリ、として、後ろを振り返った。


『何かあったの?』


 そこにいたのは朔也だった。瑠哀は一気に脱力して、大きな息を吐き出した。


『ごめん、驚かせて。君があまりに深刻そうだったから、声をかけられなくて』


 瑠哀は、何でもない、というふうに首を振ってみせる。
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