瑠哀 ~フランスにて~
『――ルイっ!』

『きゃっ――!』



 グイッと、勢いのままに引っ張った肩越しから、

驚いたように目をパチパチとさせた少女が振り返る。

 振り返って、前に飛び込んで来た姿に、その顔が嬉々とする。



『―――…ああ、ごめん。人違い、だったみたい。本当に、ごめん――』

『えぇ、いいんですけどぉ……』

『ごめん。人違いだったんだ。ごめん―――』

『いえ、いいんです』



 興味津々といったその瞳を動かして、次の言葉を言いたそうに少女が少し前に寄る。

 だが、今の朔也にはそんなことさえも、ただただ己を惨めにさせていくだけだった。



 記憶の残像が、重ならない……。



『ごめん…。人違いだから――――』



 その場を去りながら、朔也はどこか知らない方向を見やり、

そして、苦しげにその瞳を伏せていた。


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