瑠哀 ~フランスにて~
「―――こんな所で、もう一度、お会いするとは思ってもいませんでした」


 瑠哀はユージン達が去った後、母親に向き直って椅子を勧める。


「わたしもです。ユージンが、あなたに会ったと聞いて、驚きました。

それに、助けていただいたみたいで………。

お礼を言います」

「それは、お気になさらないでください。

たまたま、通りかかっただけですから。

それよりも、お話ししたいことがあって、ここに来てもらったんです」

「ええ。ユージンから聞きました。大事な話がある、と」


 瑠哀は静かに頷いた。


「ここへは、休暇かなにかで、いらしたのですか?」

「ええ。ユージンも休みなのに、どこにも連れて行ってあげられなかったので、

休みが取れて、ここに来たんです。

ここには主人の所有する別荘があるので、ホテル代が浮いてちょうどいいか、と」

「ご主人も、ここにいらしているのですか?」

「いいえ。主人は、以前に亡くなっています」

「それは、すみません……」


 母親は首を振る。


「だいぶ、前のことです。ユージンが生まれて間もない時で………」

「そうでしたか……。

―――あの、話は変わりますが、ここに来て、なにか変わったことはありませんでしたか?」

「変わったこと?」

「…尾けられている―――ようなことは、ありませんか?」


 母親はその言葉に、サッと顔色を変える。


「それは―――?!」
< 52 / 350 >

この作品をシェア

pagetop