瑠哀 ~フランスにて~
 男が振りかえる。その手に持っていたものを上げて――――


 バシュッ、という音と共に、何かが闇を切り裂いた。



 瑠哀は男が腕をあげた時、それが銃だと思った。

 だが、銃にしてはその音が変だった。

 あまりに近い距離だったため、避けようとしたが避ける暇さえもなかった。



「あぁっ―――!」

「ママンっ―――!!」


 ユージンが泣き叫んだ。バタバタと手足を動かして、男を激しく叩く。



 黙れ、と男は怒鳴り、ユージンを押さえ込むように腕を回した。

 その手に、ユージンが噛り付く。



「うわぁ―――!」


 ママン、とユージンがその手を払って駆けて来た。


 瑠哀は右腕を押さえながらユージンに駆け、そのまま抱え込んだ。


「ユージン、逃げて。逃げるのよ―――っ!」


 瑠哀はユージンの背中を強く押して叫んだ。


 足がすくんでいるユージンをもう一度追い払うようにして、その肩を強く押し返す。


 泣きながらその場を去るユージンの足音を聞きながら、瑠哀は男に向き直った。


 月が瑠哀達の上に差し込み、男の姿が浮かび上がっていく。



――――ボーガン…?



 男は新たな矢を組み入れながら、薄く口元に笑みを浮かべていた。



―――殺される!
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