瑠哀 ~フランスにて~
 それを見送った朔也が厳しい顔で瑠哀に向き直った。


「ルイ、その傷はなんだ?それに、そのあざ」



 簡単に着れる服を、と取った服が、短い上から被るサマードレスだった。

 腕も足もはっきりと出ていて、これは隠しようがない。



「―――もう、治りかけているわ」

「そうだな。

だが、その腕の傷は新しくできたものだ。

まだ、血がにじんでいる。どういうことだ?」

「サーヤ、その話は後でしよう」



 割って入ったピエールを、朔也は睨み付けた。

 ピエールはそれを無視して、瑠哀の肩を押す。



「ルイ、シャワーを浴びていたんだろう?

まだ濡れているよ。夏とは言え、風邪を引いたら大変だ。着替えておいで。

それから、このことを話そう。

いいね?」



 ピエールに押されて瑠哀は仕方なく頷いて歩き出す。

 その背中に静かな声がかけられた。



「ルイ、その傷を隠さない服を着て。

その傷をよく診たいから。ここまできても隠そうとするなら、

俺は君の服を脱がせてでも確認するよ」


 瑠哀は驚いて、朔也を振りかえる。


 朔也はそんな瑠哀に言う。


「俺は本気だよ。―――着替えておいで」



 その声色は、怒りなど含んでいなかった。

 それ以上に、底冷えさせるような冷たい眼が、曖昧にすることは許さない、と告げていた。



 瑠哀は踵を返して、部屋に走って行った。
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