瑠哀 ~フランスにて~
Part 5
「ルイ、支度はできたの?」

「もう少し………」

「わかった。下で待ってる」



 ドアの向こう側でピエールの気配が遠ざかって行くのがわかった。

 瑠哀はドレスのチャックを上まであげ、鏡で軽くチェックする。



『やっぱり、ちょっと目立つかな…』


 一応、髪で隠してはみたが、肩の後ろと背中の下の方にあざの残りが見える。


『仕方がないか……』



 瑠哀は短いドレスと長いドレスのどちらかにしようか迷って、長い方に決めた。

 大抵、こういう夜のパーティーは、男も女も正装するのが普通である。

 長い方はイブニングドレスとして持っていたものだから、ちょうどいいだろう。



 ただ問題は、瑠哀が階段から落ちた時のあざがまだ少し残っていたということだった。



 このドレスは左足の前の腿辺りから長いスリットが入っているので、歩く時に目立つ部分だけファンデーションで隠した。


 鏡台に置かれている手袋をはめ、バッグを手にして居間へと足を早めた。




「―――ごめんなさい、待たせてしまって」


 居間のドアを開けながら、瑠哀は謝った。



 そこで支度のできていた二人が振り返る。

 タキシードに身を包んで立っている二人は、男振りに磨きがかかって眩しいほどだった。



 いい男は何を着ても似合う、と言うのは本当のようだった。


「二人とも、とても素適ね」


 これには何の返事も返ってこなかった。


 二人は呆然としたようにそこに立っていて、身動き一つしない。


 その様子が瑠哀を心配させ、


「やっぱり変かしら」
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