瑠哀 ~フランスにて~
「あの男は何だ?」


 ピエールが冷たい一瞥を投げて、瑠哀に向き直る。


「以前、友人のパーティーで知り合ったの。

ワインの輸出や貿易業、コンピューター関係と、色々手がけているらしいわ」

「ふうん。その以前に知り合って、何を言ったって?」

「大したことじゃないわ」

「結婚してくれ、か?」


 瑠哀は向こうの人垣から目を離して、ピエールを振り返る。


「よくわかるのね」

「それぐらいはね。こんな所まで来て、君の追っかけに会うとはね。

笑わない氷の瞳、か」


 瑠哀は溜め息をついた。



 ふと、さっきから黙ったままの朔也が気になって、声をかけようとした。

 ―――が、その顔を見て、ハッと、止まる。



 いつになく暗く怖い顔をして、口をきつく結んでいる。


 瑠哀は驚いて近くにより、その頬にそっと手を当てた。


 朔也は、ビクリ、として瑠哀に向く。



 どうしたの、と聞こうと思ったが、その反応に言葉を失った。

 思い詰めたように瑠哀を見つめていて、その瞳には悲愴な色が浮かんでいた。

 こんな朔也の表情を見たことがなく、見つめられるまま、何も言うことができなかった。



「―――何でも、ないよ…」


 朔也がその視線を瑠哀から外しながら、手をよけるようにした。


「本当に…?でも―――」

「何でもないんだよ」



 朔也が瑠哀を遮るようにした。

 その語気の感じが怒っているようで、瑠哀は少し気圧される。

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