瑠哀 ~フランスにて~

-3-

「あの男に嫉妬したのか?」

「そういうんじゃないんだ。ただ……」


 朔也は眉間にしわを寄せて考え込む。


「サーヤ、僕はね、ルイが不意に見せる表情でしっくりこない、

とずっと思っていたことがあるんだ。

だが、今夜のルイを見てそれがはっきりした。

ルイは“女”だ」


 朔也は、何を当たり前のことを、と言うふうに顔をしかめる。


「僕はルイの姿形を言っているんじゃない。

彼女の性向のことを言っているんだ。

性質・気質――そう言ったものだよ。

姓別が女だからと言って、それが必ずしも“女”の質を表すとは限らない。

それは“少女”だったり、“子供”だったり、“少年”だったりする時もある。

だが、ルイの性向は、“女”だ。

“女の子”じゃない。僕の言っていることが判るか?」

「なんとなく……」


 ピエールはそれに頷いた。


「人は生まれ持った質・性質のようなものがあるんだと、僕は思っている。

環境や年齢でそれが少し変わってくるのかもしれないが、

生まれ持った質と言うのは、ずっと存在するものだと思っている。

今まで見てきたルイなら、“少女”だろう。

だが、僕はこれにしっくりこなかった。

“女”の質なら、当然のことだ。

“女”と“少女”はまるっきり別のものだ。

ルイは“少女”にはなれない」


「ルイが“少女”だとは思わない?」

「思わないね。ルイもそれを自覚している。

大抵の人間は、そういうものを自覚しないで生きていけるだろう。

周囲が、君は少女だから、と扱えば、君もそれに適応する。

それだけのことだ。

ルイは、自分が“女”だと知っていて、

“女の子”のように行動している、と言った方が正解かな。

周りが“少女”なら、そうした方が便利なんだろうね」
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