【短】キャンバス
でも君は遠くを見ている。
その横顔が止めることは無理なのだと感じさせた。
「…今…だから留学することを決めたんだ。此処は居心地がよすぎて離れたくなくなる。
俺の絵に対する気持ちが冷めないうちに…遠くを追っていたいんだ」
あぁ…その言葉を聞いて私は痛感した。
彼の目指している遠くは私と重なることはない。
いつまでも平行線
私は彼の遠くを遠くで見ていることしかできないのだ。
彼は…遠くを見ている。
私が見ることのできない、とても遠いところを。
そんな遠くを見ている彼が好きだった。
近くにいすぎたこの時間が夢のようで、雪のように溶けていく。
寂してくても、辛くても私は君を離さなければいけないんだ。
私はぐいっと乱暴に腕で涙を拭く。
「君は…いつも遠くを見ていたよね」
誰の輪にも入らず、一人でいた。
だけどいつも凛としていた。