【短】キャンバス



彼がフランスに留学したいことは聞いていた。
ずっと前から知っていた。



だけど…急すぎる。
卒業までいられると思った。
引退するまで、部活で近くに入れると思っていた。



でも…それは私が望んでいたことに過ぎなかった。
彼はここを去っていく。
ここを去って、絵の勉強をしにフランスに行く。



考えれば考えるほど悲しくて
涙が溢れてきて…



気づいたら私は屋上にいた。
夏の風が頬に流れる。



乾くはずの涙は乾かない。
どんどん私の頬を濡らす。



「……ふぅっ!」



私はその場にしゃがみこんだ。



辛くて、悲しくて…
どうして…もっと早くに言ってくれなかったんだろう。
どうして…黙っていたんだろう。



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