腐れ縁からくる安心感って罠だと思う。
綾は狭いキッチンに窮屈そうに立っている兄を一瞬睨む。
…なんでアイツがいるのよ。
そんな意味を込めて。
「ごめんって…」
眉を八の字にして兄は小声で申し訳なさそうに言った。
コイツが来るときはメールしてって言ってたのに…!
「寒くねぇのか?狭いけどまあ入れよ。」
私の部屋だっつうの…!
(正しくはお兄ちゃんと私の、だけど。)
兄と一緒なら、と、許して貰った一人暮らしにこんなガサガサしたセミはいらないのだ。
騒がしい男を一別して、綾は仕方なしにブーツを脱ぐ。
「…お前、しばらく見ない間に垢抜けたなぁ。」
「…。」
「色気付きやがってこのやろう。」
…うるさい。
狭い部屋の小さなコタツに窮屈そうに入っている須田という兄の友人は、小さな時から綾をちゃかして遊ぶのが好きだ。
「おい、無視すんなよ。」
「…私もう大学生。普通でしょ?」
…寒い。
うんしょとしぶしぶ同じコタツに入りながら綾はぶっきらぼうに応えた。
「へぇ。あの地味で引っ込み思案で友達少ない綾がもう大学生とはねぇ。」
…うっとうしい!
イライラがどんどん頭に乗っかって行く綾に、兄は笑顔で冷や汗をたらした。
「…あーー、ソースないや。買ってくる。」
「おう!」
「えっ!?」
間の悪すぎる兄が去った後の部屋は更に居心地が悪い。
最悪…。
そんな微妙な空気など全く気にせず、須田はニヤリと笑った。