極上御曹司のイジワルな溺愛
やっぱり私は日本人で、ハグやキスの挨拶は苦手。だから蒼甫先輩の言っていることが正しいと思うけれど、薫さんを否定するのもいかがなものか。
別に減るもんじゃないし、ここはハグくらい我慢しておくべき?
でも蒼甫先輩は薫さんを目の前にしても一歩も引かず、私の前に立ち続けている。そんな先輩を見て薫さんは根負けしたのか、「わかったよ」と言ってクククッと意味深に笑い出す。
「蒼甫が感情を顕にするなんて、珍しいね」
「うるさい、放っとけ」
痛いところを突かれたのか蒼甫先輩はそう言って、バツが悪そうに頭をガシガシと掻いた。
「椛ちゃんは……まだ気づいてないみたいだね」
急に話題を振られ、「なんのことですか?」と首をかしげる。
「いや、こっちの話。蒼甫。タクシーにまだ荷物あるから、運ぶの手伝ってくれる?」
薫さんは何事もなかったかのように外へと歩き出すが、私はまだわだかまりの中。
私はまだ何に気づいてない? 蒼甫先輩に関係があることなの?
しばらく考えても答えは出てきそうもなくて、諦めると蒼甫先輩の後を追った。