極上御曹司のイジワルな溺愛
だとしたら、私は特別?
「いや~、それはないない……あ」
心の声が漏れてしまったことに気づき、慌てて口を閉じる。
「ん? 何がないんだよ?」
蒼甫先輩にそう突っ込まれ、でも今口を開くと自分の気持ちが飛び出してしまいそうで、無理やり先輩の腕から逃れるとクルッと振り返る。
「さあ先輩、ちゃっちゃと夕飯作っちゃいましょう」
何をしたらいいのかわからなのに、目の前に置いてあった包丁を握りしめた。
「わ、わかった。わかったから、その包丁を離せ。俺はまだ死にたくない」
その姿がまるで、凶悪事件の犯人を説得するようで笑えてくる。
「なんですか、それ? なんで私が、蒼甫先輩を刺すんですか?」
「お前のことだからな、間違いを起こすかもしれない」
「起こしませんよ」
ふたりでまるで夫婦漫才のようなことしていると、カウンターの向こうからコホンとひとつ咳払いが聞こえた。
「君たちは、ホントに仲がいいね。実は付き合ってるんじゃないの?」
薫さんが頬杖をついて、こっちを覗き込んでいる。