極上御曹司のイジワルな溺愛
だって薫さんには、好きな人がいるはずで……。
半信半疑で薫さんを見ると、大きく首を振って「違う違う」とアピールしていて。
「椛ちゃん、僕もう三十五歳だよ? 見境ないなんて、そんなわけ無いでしょ! 蒼甫も、いい加減なこと言わないでもらいたいなあ」
「いい加減なことじゃない。以前はそうだった、だろ?」
「……まあそこは、否めないけどさ」
薫さんはバツが悪そうに頭をポリポリ掻きながら歩き出し、私の目の前まで来ると両手をガシッと掴んだ。
「でも、椛ちゃんは信じてくれるよね?」
そう言う薫さんの瞳が、雨の日に捨てられている子犬のように見えてつい、
「し、信じます」
まるで催眠術にでも掛かったかのように、口が勝手に動いてしまった。
「おい、椛! お前、どっちの味方なんだよ!」
「え? あ、はい。すみません」
突然蒼甫先輩に責め立てられて、特に悪いことも言ってないのに謝ってしまう。