極上御曹司のイジワルな溺愛
里中家の長女と生まれて、もう少しで三十年。けして裕福とは言えないが、何不自由なく育ててくれたことには感謝している。
家事全般が好きな母は食事の支度や洗濯、私の部屋の掃除などを当たり前のようにやってくれた。それに甘んじていたのも悪いが、そのせいで私は三十を目前に大人として仕事以外何もできないダメな女に成長してしまった。
なのに今更、ひとり暮らしをしろと? それはあまりにも非情じゃありませんか?
なんて自分勝手なことを思って、ひとり項垂れた。
親子を二十九年もやっていれば、母が一度決めたことは何があっても覆らないことぐらい私も知っている。
泣き言を言うのも嫌だし、母が言っていることも落ち着き始めた今ならわかる。
ひとり暮らしを勧める一番の理由はもちろんリフォームなんだろうが、母には母の考えがあってのこと。
両親は見栄や世間体を気にするタイプじゃない。だから三十歳にもなる娘が実家にいるとこを疎ましく思って、ひとり暮らしをさせようと言ってるんじゃない。
そろそろ潮時か──
次の休みは、三日後の金曜日。その日に、この家を出る。
そう心に決め、深呼吸をひとつ。無理に笑顔を作ると立ち上がり、出勤の準備をするため洗面所へと向かった。