極上御曹司のイジワルな溺愛
「麻奈美、ごめん……」
スタッフルームで麻奈美を見つけると、近くあった椅子を引き寄せ彼女の隣に座る。
「なんで椛が謝るのよ。こっちも難しいこと押し付けて悪かった。で、彼女の様子はどんな感じ?」
進行表を制作していたのか、麻奈美は右手に持っているボールペンをくるくる回し、私の顔を興味深そうに見る。
「うん……まあ、何か心配なことがあるのは間違いないと思う。でもそれは結婚や新郎の森さんのことではなくて」
たぶん結婚とは関係のないことのような……。
「そうなんだ。衣装選びや引き出物を決めるとき、ご両親とも和気あいあいとしてたし、そっちの問題もなさそうだけど」
麻奈美の話に頷くと、深い溜息が漏れてしまう。
「一生に一度の大切な記念日になるわけだし、まっさらな気持ちで当日を迎えてもらいたいんだけどなぁ」
そう簡単には割り切れそうになくて、本音が漏れてしまう。
「それはそうなんだけど、私たちにはこれ以上深入りするわけにいかないしね。それに結婚を控えてる新郎新婦はあのふたりだけじゃないから、これ以上はどうしようもないよ」
クールな麻奈美はそう言うと、早々に気持ちを切り替え途中だった仕事を始めた。
確かに麻奈美の言う通り、雅苑で結婚式を控えているお客様は森さんと溝口さんだけじゃない。私がMCを担当する新郎新婦も、年末を控えてかなり立て込んでいる。
仕方ないと諦めるのは多少後ろ髪を引かれるが、時期が時期だけに麻奈美の言うとおりだと、私も溜まっている仕事に集中することにした。