極上御曹司のイジワルな溺愛

心が痛い。

私の気持ちは蒼甫先輩だけに真っ直ぐ向いているというのに、彼の気持ちが全然わからない。

「どうして、こんなこと、するんですか?」

悲しいやら腹ただしいやら、目頭が熱くなって涙が溢れそうになってくる。

酔ってるから──なんて言われたら、きっとしばらく立ち直れない。

だから蒼甫先輩、お願い。私のことを好きだと言って……。

なんて。

私の中にこんな勝手な私がいたなんて、思ってもみなかった。

自分自身に呆れてしまって、もう笑うしかない。

「なんかひとりで勝手なこと考えてるところ、申し訳ないけど」

フッと笑った蒼甫先輩が私に顔を近づけると、無防備になっていた唇が重なる。それはほんの一瞬で離れ、蒼甫先輩の至極真面目な顔が私を見つめていた。

「先輩……」

「好きだ」

綺麗な形をした唇がゆっくり動くのを、ぼんやりと眺める。

蒼甫先輩、今、「好きだ」って言った?

ここ何分間の流れで考えれば、この“好き”は愛の告白なんだろうけれど。

まさかね。

「……何が好きなんですか?」

素っ頓狂な質問でもしてしまったのか、蒼甫先輩が呆れたように天を仰いだ。



< 159 / 285 >

この作品をシェア

pagetop