極上御曹司のイジワルな溺愛
しかし、こんな気持でも一日はとっくに始まっているわけで。今日は挙式披露宴が目白押しだ。
気持ちを切り替えないと──
小さく息を吐き、パチっと目を開ける。
さっさと洗い物を済ませますか。
シンクの縁から手を上げ、スポンジを取ろう右腕を伸ばそうとした、その時。
いきなり背後から体を羽交い締めにされ、おもわず「うわぁっ!」と悲鳴にも似た声を上げてしまう。
「ごめん。みっともないこと言って」
いつの間に来ていたのか、肩口に顎をおき発せられたその声は蒼甫先輩のもので。自省しているのか、かなり弱々しい。
水の音で全く気づかなかった……。
ごめんと言われてもなんて返事をしていいのか黙っていると、体の戒めが強くなる。
「俺今まで、本気で恋愛をしてなかったのかもしれない。椛は、椛だけは、絶対に手放したくない」
さっきとは違い、蒼甫先輩の力強い口調に、体の熱が上昇する。
「私も同じこと思ってました。もしかして、誰と付き合っても長続きしなかったのは……って」
頬に触れている蒼甫先輩のふわりとした髪がくすぐったい。肩をすぼめるように微かに体を動かすと、蒼甫先輩の唇が頬をかすめた。