極上御曹司のイジワルな溺愛

一気にふたりを纏う空気が変わり、緊張感が増す。出っぱなしの蛇口を蒼甫先輩が手を伸ばし止め、私の体をくるりと反転させた。

「お詫びのキス、してもいいか?」

「お詫びのキスって……」

なんだそれ? と思いクスクス笑いながら、こくんと頷く。と同時に、蒼甫先輩の顔から微笑が消えた。

「後輩は昨日で卒業だ。今日から椛は、俺の恋人だ」

ゆっくりと彼の顔が近づいてきて、穏やかな瞳が私を見つめている。

「蒼甫……」

先輩──そういう前に、『もう先輩じゃないだろう』と言うように唇が重なる。激しく貪られ何度も角度を変えると、重なりは深さを増していった。

こんな息が苦しくなるほどのキス、初めてかも……。

唇が薄く開き大きく息を吸い込み、蒼甫先輩の気持ちに応えようと彼の背中に腕を回す。

すると、ダイニングのドアがカチャッと音を立てた──ような。

「あれ? そこで何してるの、おふたりさん?」

その声に驚き蒼甫先輩から弾かれるように離れると、何事もなかったかのように蛇口をひねる。

「か、薫さん、驚いたじゃないですか。おかえりなさい。あ、おはようございます、でした」

古臭いと思いながらも頭を掻き「あははははは」と笑顔を作って見せたが、その顔は引きつっていて。薫さんタイミング悪すぎ……と心の中でボヤいてみせる。



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