極上御曹司のイジワルな溺愛
薫さんの瞳は、昨日始めて見た冷ややかな視線に変わっている。
一瞬怯みそうになった心を、ここで負けては女が廃る……と言わんばかりに薫さんの目を真っ直ぐ見つめた。
「椛。兄貴のことはもういい、放っておけ」
「放っておけません!」
蒼甫先輩は私の肩に手を置き「やめておけ」と言うけれど、いまさら後には引けない。
薫さんも同じだったようで、私に近づくと人を小馬鹿にするようにあざ笑う。
「椛ちゃんって案外、おせっかいなんだね。可愛げないなぁ」
「おせっかいなのも可愛げないのも、百も承知です。でも里桜さんのこと、どうするつもりですか? 彼女ホントは、薫さんを追って日本に来たんじゃないんですか?」
新作ウェディングドレスのお披露目会やブライダルフェアの打ち合わせもそうだが、一番の理由は薫さんのことだとすれば、急に日本に来たことも腑に落ちる。
そしてそれは的を得ていたのか、薫さんの表情は見る見るうちに曇っていき、「ちっ」と舌打ちをすると不快そうに顔をしかめた。
「君に何がわかる」
「え?」
薫さんからは聞いたことのないような低く小さな声は、怒りに震えている。
「好きという気持ちだけじゃ、どうにもならないこともあるんだよ! 恋に恋してる君には、到底わからないかもしれないけどね」
「恋に恋してるって……」
反論しようとしたけれど薫さんが背を向けキッチンを出ていってしまい、それ以上は言葉が続かなかった。