極上御曹司のイジワルな溺愛

目の前のドアを小さくノックし、返事を待たず開ける。

「お待たせしてすみませんでした」

下げていた頭を上げると、驚きから目を見開いた薫さんと目が合った。でもすぐに薫さんは咎めるような、鋭い目つきに変わってしまう。何だか騙したような気分になってしまい、私は薫さんから目を逸らした。

「いや、大して待っていない。里桜さん、こちらへ」

今この部屋で平然としているのは蒼甫先輩だけ。

彼は深く腰掛けていた椅子から立ち上がると、里桜さんを招き入れる。

「蒼甫くん、ありがとう。薫さん、何日ぶりかしら」

この個室には会議や食事をするスペースの他に、大きな窓から外の景色が見えるところに応接ソファがある。そこに薫さんと向かい合うように腰を下ろした里桜さんは、彼から視線を外さない。

しばらくは見つめ合う(いや、にらみ合う?)ふたりだったが、それに耐えかねのか、先に薫さんが目線を泳がせた。

「蒼甫、騙したな」
「騙したとは人聞きが悪い。兄貴が逃げ回るから、俺がお膳立てしたまでだ」
「勝手なことを。それが騙したっていうんだ!」

薫さんが珍しく声を荒げ、蒼甫先輩のことをキッとにらみ上げる。怒り心頭なのかその矛先はすぐに私へも向けられ、恐怖から体が縮こまってしまう。



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