極上御曹司のイジワルな溺愛

「薫さん、ちょっと落ち着いて。そんなふうに睨んだら、里中さんがかわいそうよ」

里桜さんが庇う言葉をかけてくれると、仕方ないと言うように顔を背けた。

「あなたと話ができないから、私がふたりに頼んだの。怒るならふたりじゃなくて私にだと思うけれど?」

里桜さんはあくまでも冷静で、物静かに話しかける。それはまるで小さな子供にするものに似て、彼女が母親なんだと痛感する。

こんな時私なら感情をむき出しにして、喚き散らしているに違いない。さほど歳も違わないのにとこの差は何? と思わずにはいられなかった。

シュンと肩を落とすと、それを見ていたのか薫さんが小さく息を吐く。

「ごめん、椛ちゃん。そうだよね、今の僕が怒るなんてお門違い。自分の不甲斐なさに腹が立つよ」
「それがわかってるなら、ちゃんと里桜さんと向かい合えよ。兄貴は里桜さんのこと、大切じゃないのか?」

蒼甫先輩の言葉を聞いてか、薫さんの体が小刻みに震えている。

「そんなこと……そんなこと蒼甫に言われなくてもわかってるよ。いい歳してかっこ悪いけど、僕だって迷ってるんだ。そんな簡単に答えなんて出せないよ」

俯く薫さんを見ていると、胸が苦しくなってくる。



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