極上御曹司のイジワルな溺愛
きっと薫さんは、誰よりも優しい人なんだと思う。だから必要以上に悩んで、人一倍苦しむのだろう。
自分のことより相手のこと──
素敵だと思うけれど、でも里桜さんの気持ちは?
他人の恋愛沙汰にあれこれ言う権利は私にはないけれど、これからもふたりには笑っていてもらいたい。悩んで暗い顔をしているより、笑って過ごすほうが何倍も幸せだ。
その方法を見出すためにも薫さんには、話し合ってもらいたい。
でもどうやって声をかければいい?
もどかしい気持ちでいると、蒼甫先輩が私の肩に手を置いた。
「椛は口をだすなよ」
耳元でそう呟き、目で訴えてきた。
なんで私の心の中がわかるのよ……。
でもそう言われては、いまさら何も言えない。
シュンとしておとなしく蒼甫先輩の隣に座っていると、里桜さんが少しだけ体を前に乗り出した。
「薫さん、聞いて。私がこんなこと言うのはおこがましいってわかってる。でも私には薫さん、あなたが必要なの。そして奈々にも。奈々には“薫さん”というパパが必要だわ」
「僕という……」
「そう。あなたは、あなたでしょ? 無理して本当のパパになろうとしなくていいのよ。薫さんらしいパパを、奈々はきっと望んでいるはず」
優しく諭すような口調は、確実に薫さんの心に届いている。