極上御曹司のイジワルな溺愛

薫さんの表情が少しづつ変わっていることに安堵していると、蒼甫先輩が私の耳元に顔を寄せた。

「出るぞ」

「え? でも……」

せっかくうまくいきかけているのに、このまま二人っきりにさせていいの? それにできれば、最後を見届けたいじゃない。

そう思っているのに蒼甫先輩は私の腕を掴み、部屋の外へ出てしまった。

「あのふたりは、もう大丈夫だ」
「それはそうですけど、気になりませんか?」
「全然。俺たちはお膳立てするだけ、後はふたりで解決するだろう。それとも何か、このまま兄貴たちに付き合って、せっかくの休日を無駄にするつもりか?」
「無駄にするって……」

そう言われても。今日は薫さんと里桜さんの話し合いに付き合うつもりで、他に何も考えていない。

そもそも無駄とも思っていなかったし、蒼甫先輩は何が言いたいんだろう。

そんな事を考えながら蒼甫先輩に手を引かれて歩いていると、急に立ち止まった先輩の背中にぶつかってしまう。

「ちょ、ちょっと先輩。なんで急に止まるんですか!」
「椛って、今日明日と休みだったよな?」

くるっと振り返った蒼甫先輩に、ウンと頷く。

今どきの十二月は、結婚式も書き入れ時。週末の土日のスケジュールは、ほとんど埋まっている。しかも一日に挙式披露宴を三つこなすのは当たり前で、まさに師走状態。雅苑の中を、上へ下へと走りっぱなしだ。



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